出会える人
出会える人 Vol.2
遊び心で、まちを変える
株式会社地方創生 代表 近江 淳さん
株式会社地方創生代表。宿泊施設、ヴィーガンベーグル店、日本茶スタンド、そしてクラフトビールの醸造所がひとつに集まった複合施設「KOTO VEGAS(コトベガス)」のユニークな名前と構想を手がけ、現在も琴平町のまちづくりに挑いでいる。
琴平に“ベガス”が生まれた理由
金刀比羅宮の門前町・琴平の商店街に、ひときわ目を引く建物があります。 宿泊施設、ヴィーガンベーグル店、日本茶スタンド、そしてクラフトビールの醸造所。 それらがひとつに集まった複合施設――「KOTO VEGAS(コトベガス)」。
このユニークな名前と構想を手がけたのが、株式会社地方創生の代表・近江淳さんです。彼は東京でPRの仕事をしていた“元広報マン”。そんな彼が、なぜ香川・琴平の地で次々と新しいお店を生み出しているのでしょうか。
東京から地方へ──「震災」が変えた視点
近江さんは、東京の株式会社パソナで9年勤務した後、PR会社を経て独立。自治体の広報や地域PRを手がける中で、2011年の東日本大震災に直面します。
「自宅近くの公園の土壌が除染されているのを見て、ああ、これはもう“遠い災害”じゃないと感じました。」
家族を奈良に避難させ、自分は東京で働き続ける“逆単身赴任”の日々。そのときに初めて、地方に暮らすということ、そして“地方で働く”という意味を実感したといいます。この経験が、後の琴平での挑戦へとつながっていきました。
地元に愛される場所は、観光客にも響く
初めて琴平を訪れたとき、参道には多くの人が行き交っていました。「この町には何かできるかもしれない」――そう感じた一方で、古びた商店や空き店舗にも課題を見出した近江さん。
店づくりで大切にしたのは、“観光客よりも、まず地元の人たち”。
「地元の人が通いたくなる場所って、結果的に観光客も行ってみたくなるんですよ。そこが一番大事なポイントです。」
「点ではなく面で仕掛ける」まちづくり
「商店街の中で一店舗だけ成功しても、まちは動かないんです。」
近江さんは、文具店を皮切りに、ブルワリー、宿、日本茶スタンドなどを次々と展開。点を線に、線を面に変える――その意識でまちづくりに挑んでいます。
「ひとつの成功で終わらせず、連鎖させること。面で仕掛けるからこそ、人の流れが生まれる。商店街全体を考えなければ、持続的な活性化はできないと思っています。」
“KOTO VEGAS”という名に込めた想い
プロジェクトの原点は、イタリア発の「アルベルゴ・ディフーゾ(分散型ホテル)」という考え方。空き家や空き店舗をリノベーションし、まち全体をホテルのように機能させる取り組みです。
ただ、「アルベルゴ・ディフーゾ」という言葉は少し難しい。もっと親しみやすく、遊び心を込めて名づけられたのが“コトベガス”でした。
琴平は金刀比羅宮を中心に、多くの旅人が集う町。お参りして、泊まって、食べて、楽しむ――そんな非日常の空気がラスベガスのように華やかに感じられたことから、この名前が生まれました。
「ギャンブルの街という意味ではなく、“人生を楽しむ場所”としてのベガス。かつて文化人や志士たちが集ったこの町に、もう一度文化と人の熱を取り戻したい。そんな想いを込めています。」
コロナ禍からの船出
文具店をオープンして3日後、全国に緊急事態宣言が発令。観光客が年間260万人訪れるはずの町から、人の姿が消えました。
「もうやると決めて来たので、止まる選択肢はなかった。じゃあこの時間をどう使うかを考えました。」
観光が止まったからこそ、地元の人たちとじっくり話す時間が生まれたといいます。商売が動かない期間にこそ、町の人々と未来を語り合う時間を持てた――それが、今の活動の基礎になっています。
地方のキラーコンテンツは“人”
「どんなに景色や食が素晴らしくても、最後に記憶に残るのは“出会った人”なんです。琴平にはまだまだ光る人がたくさんいる。だから僕らは“モノづくり”と“コトづくり”を通じて、“ヒトづくり”をしていきたい。」
輝く人がまちをつくり、そのまちがまた新しい人を呼び寄せる。そんな循環を生み出すために、近江さんは今日もまちの真ん中で走り続けています。
学生ライターから見た近江さん
地方創生という言葉は、少し難しく聞こえるかもしれません。でも取材を通じて感じたのは、まちを動かすのは“人”だということ。
近江さんの話は、派手な成功談ではなく、町の人たちとの対話から生まれた小さな変化の物語でした。「自分の“やってみたい”を信じていい」――そう思わせてくれる時間でした。
いつか、コトベガスでベーグルを頬張りながら乾杯したい。そんな気持ちで取材を終えました。
KOTO VEGAS(コトベガス)/株式会社地方創生
香川県仲多度郡琴平町新町商店街
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この記事を書いた人
琴平縁むすびプロジェクト またたびさん
私たちは、香川大学『琴平縁むすびプロジェクト またたび』です。琴平で活躍する「琴平ビト」を取材・発信し、人と人との縁をむすびながら、その想いやストーリーを通して琴平の新たな魅力を広げています。